特別講演
人工知能研究の現状と最近の取り組み杉山 将(すぎやま まさし)氏
理化学研究所 革新知能統合研究センター センター長 1974年大阪生まれ.情報工学の学士(工学),修士(工学),博士(工学) の学位をそれぞれ1997年,1999年,2001年に東京工業大学から取得.2001年より同大学の助手,2003年より助教授(2007年より准教授に改称).2014年より東京大学教授.2016年より理化学研究所革新知能統合研究センター長を併任.2003年から2004年にかけ,アレキサンダー・フォン・フンボルト財団フェローとしてドイツ・ベルリンのフラウンホーファー研究所に滞在.2006年にはヨーロッパ委員会エラスムス・ムンダス助成を受け,英国・エディンバラのエディンバラ大学に滞在.非定常環境下での機械学習の研究に対して,2007年IBM Faculty Awardを受賞.密度比推定に基づく機械学習の研究に対して,2011年情報処理学会長尾真記念特別賞および2014年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞.また,一連の機械学習研究に対して,2016年度日本学術振興会賞および日本学士院学術奨励賞を受賞.機械学習とデータマイニングの理論研究とアルゴリズムの開発,および,その信号処理,画像処理,ロボット制御などへの応用研究に従事. |
近年,世界中の企業・大学・研究所で人工知能の研究開発が行われており,その競争はより一層激しくなりつつあります.そのような中,どのようにして基盤技術研究の国際的な競争力を高め,応用分野でその成果を社会還元し,関連分野の持続的な発展に資する人材を育成していくか,大胆な戦略を立てる必要があります.本講演では,人工知能研究の現状を概観するとともに,2016年に開設された理化学研究所・革新知能統合研究センターの取り組みを紹介します.
革新知能統合研究センターでは,基礎研究に軸足をおき,様々な企業・大学・研究所・プロジェクトと連携して,次の5つの事業を推進しています.
- 人工知能基盤技術:深層学習の仕組みの解明,および,新しい原理に基づく次世代知能技術の開発
- サイエンス研究の人工知能による加速:再生医療,新素材開発,ものづくりなど国際競争において日本が強い分野を人工知能技術により更に強化
- 社会課題の人工知能による解決支援:医療・ヘルスケア,防災・減災,インフラ管理など日本が直面している社会課題を人工知能技術で解決
- 人工知能の普及が社会に及ぼす影響の分析:データの収集と流通,人工知能が社会で受け入れられるための制度や倫理,人工知能研究の倫理を議論
- 高度人工知能研究開発人材・データサイエンティストの育成:企業の技術者や大学の学生・研究員とともに最先端研究を推進するとともに,諸外国の大学や研究所と連携体制を構築
また,講演者のグループが近年取り組んでいる「弱教師付き機械学習」に関する研究成果も紹介します.これは,大量のラベル付きデータが得られない場合でも高精度に機械学習を行うための枠組み・アルゴリズムに関する取り組みであり,近年のラベル付きビッグデータを用いた大規模機械学習に関する研究とは一線を画すものです.