第13回 計測自動制御学会
システムインテグレーション部門講演会

si2012   kego_park
福岡・天神クリスマス(警固公園),提供:福岡市   

特別講演

prof_iwasa

講師: 巌佐 庸 (いわさ よう) 先生
    九州大学大学院理学研究院 教授

題目: 生物の適応戦略を求めて

日時: 2012年12月19日
場所: 福岡国際会議場



要旨

  1. 生物の行動や生態は自然淘汰によって選び抜かれた適応的なものである. その理解には工学の手法が役立つ. 例として,鳥が不確定な環境で経験にもとづいて効率よくエサ場を移動するモデル,チョウの雄が雌よりも早く羽化するパターンを複数の個体がそれぞれの利益を追求するゲーム理論モデル,1年生草木や多年生草木といった植物の生活史適応を説明する制御工学の動的最適解を紹介する.
  2. クジャクの雄の尾のように,実用的でない派手な装飾や歌やダンスは,性淘汰によって進化した. どんな雄の性質でもそれに対する好みが流行し始めると,どんどん極端になるという考えをランナウェイ説と言う. これに対して,派手な装飾は,雄の遺伝的な質の高さを表すので雌が配偶者選択の基準に使うとする考えをハンディキャップの原理という. これらのアイデアが成立することは,進化遺伝学の計算で示せる.
  3. 生物にも他個体を助けて自分は犠牲を払う利他行動がみられる. 人間社会では,評判や道徳などにもとづいて助け合う間接互恵により,血縁のない個体への協力行動が生じる. 以前に他人に協力したかどうか,その相手がよい人だったか,によって「良い」「悪い」という評判を割り当てるやり方を社会規範と考え,社会規範を網羅的に調べてみた. 社会の中で人々が互いに協力する状態を安定に維持できる規範は,ごく少数のものだけである. それらでは,良い人に協力すれば良い人,協力しないと悪い人と評価され,また悪い人には協力しなくても良いままでいられる. これらの規範には,評判によって互いが協力せざるを得ない状況に人々を追い込む力がある. 間接互恵が働いている社会では,第3者についての評価が他の人と違っていると本人が不利になるため,個々人が評価を互いに交換して他人に合わせる. 人間は,言語を使えるようになって間接互恵のメカニズムが働きだし,強く協力するようになったと考えられる.

略歴

  • 1975年 京都大学理学部卒
  • 1980年 京都大学大学院理学研究科博士課程修了
  • 1981年 スタンフォード大学生物科学研究員
  • 1983年 コーネル大学生態系研究センター所員
  • 1985年 九州大学理学部助手(数理生物学)
  • 1992年 九州大学理学部教授
  • 2002年 九州大学大学院理学研究院教授 現在にいたる
  • 2010年より 九州大学高等研究院 院長
  • 1996-1997年 ドイツベルリン高等研究所成員
  • 2002-2003年 プリンストン大学高等研究所成員